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「貫一さんが……」
……そうだ、確かに、聞こえた。
あのとき俺は、朦朧とした意識の中で、俺に呼びかける貫一さんの声を聞いていた。
胸が締め付けられるような悲鳴だった。
「……あのとき、もしかしたら、あなたよりも貫一くんのほうが痛かったのかもしれない。痛くて、本当はもうあなたに闘って欲しくないと思ったかもしれない。……でもそれをこらえて、再起するあなたを支えていたのよ。自分の感情を殺して相手のために尽くすなんて、生半可な愛情じゃできないわ」
愛……? 貫一さんが、俺を……?
「貫一くんのこと、大事にしなさい。そのためにも強くなって。誰にも負けないほど強くなって。そうすればあなたは傷つかない。貫一くんも傷つかずに済むわ。……あなたが強くなることが、彼の心を守ることになるのよ」
貫一さんは、傷だらけの俺をやさしく介抱し、温かい料理で励ましてくれた。
だけど、それは彼が俺のトレーナーだからだ。
控え室でキスしてくれようとしたのもただの慰めで、公園でキスしたのは約束だからだ。――そう、思っていた。
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