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だけどもし、それが……立場以上のものであったなら。師弟愛でないのなら。俺の一方的な想いでないのなら……嬉しくて、嬉しすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
だから今は、それを確かめられない。
もし万が一、貫一さんが俺を好きだと言ってくれたなら、その場で暴走して約束を反故にしてしまうのは目に見えている。そのくらい限界ギリギリのところで耐えているんだ。
もう狂いそうなくらい好きで、好きで、好きで……だから、守りたい。彼のことを。彼との約束を。
心が通じ合っていたとしても、彼を手に入れるのは、世界チャンピオンになってからだ。
なめらかに繰り出されるコンビネーションを上体のムービングでかわしつつ、小刻みにジャブを出す。
そのジャブをパリングしたニールが、俺のアゴを狙って右を伸ばしてきた。
その腕をスリッピングで避けつつ、左腕をギュンッ! と回り込ませる――ガァン! ――鋭いクロスカウンターをこめかみに喰らったニールは、もんどり打ってリングに倒れこんだ。
「ダーウン!」
ニールの顔を覗き込んだレフェリーが、すぐに頭上で腕を交差させた。
カン! カン! カン!
電光掲示板を見ると、1ラウンド1分12秒だった。
……早すぎる。もっと見せ場を作れと加地さんに怒られそうだ。
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