あなたの好き

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セコンドに助け起こされたニールに歩み寄ると、彼は悔しそうにグローブを突き出してきた。目で促されて、そのグローブに、トン、と自分のグローブを合わせる。 「Well played(いいプレーだったよ)」 そう言葉をかけると、ニールは複雑そうに笑った。 「I’ll try even harder(これからもっと頑張るよ)」 客席からパチパチと暖かい拍手が降ってきた。その中を歩き去っていくニールを見送って、軽く目を伏せる。 俺がボクシングを始めた目的は、貫一さんを手に入れるためだった。ボクシングが好きだったわけじゃない。 だけど今は、ボクシングの楽しさがわかってきた。 勝てばもちろん嬉しいが、負けても、もっと頑張ろうと克己に励める。 それはきっと俺だけじゃない。 ここに立つボクサーたちは皆そうなんだ。 頑張って頑張って、そうして蓄えた力全部でぶつかりあう。 ゲームなんかじゃ味わえない、辛くて痛くて、でも猛烈に熱いリアルがここにある。 まぶたを上げて、赤コーナーで待っている貫一さんを振り向く。 あなたが好きな世界を、俺も好きになれたよ。 貫一さんの満面の笑みに、胸が熱くなった。 燃えているみたいだ。
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