恋焦がれて

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智典が長浜をヒョイッと抱え上げた。そのまま荷物のように運んでいく。放せ~! という叫び声とともに、ドアが閉まった。 だがすぐに開き、智典だけが戻ってきた。 「長浜は?」 「放りだ……コホン、お帰りになりました」 にっこり笑う、その笑顔が怖い。 「そ、そうか。じゃあ練習再開するか」 「はい。……貫一さん、もし今すぐ施設を大きくしたいなら、父さんに頼めば資金を出してくれると思います」 「いらないいらない! 施設を大きくしたいとか思ってない。……それに楠木さんにはもう十分すぎるほど甘えてるんだ。これ以上甘えたくない」 楠木さんは息子の活躍が嬉しくてたまらないのだろう。智典の後援会を立ち上げて、会長になってくれた。 俺が何も言わなくても遠征費用やジムの備品代として多額の金を送ってくる。おかげで俺はバイトを減らしてジムのことに専念できるようになったし、三輪くんのバイト料もうちから払えている。 ありがたいが、申し訳ない。
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