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俺は、あいつに応えるべきじゃない。
諭して、あいつが幸せな家庭を築けるよう導くのも、年長者の役割だ。
いや、諭すまでもないかもしれない。
あいつが世界チャンピオンになって、約束通り俺を抱いたとしても、……こんなおじさんの体、すぐ飽きられるに決まっている。
智典は俺から離れていくだろう。
そうだ、あいつは頑固だから、自分から言い出した約束を守ることに執着してるんだ。
約束を果たせば、その執着も消える。
それに……と、人が増えて過密状態になった室内を見渡す。
世界チャンピオンが収まるには、このジムは小さすぎる。スペースだけの話ではない。業界での規模も指している。
智典の将来を考えるなら、彼を上手にプロモートできる有力ジムに移籍させたほうがいい。
今だけだから……。
今だけ、好きでいさせてほしい。
「智典……」
こんなに恋い焦がれるようになるなんて、思わなかった。
抱かれたい――自分がそんなことを望むようになるなんて。
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