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「……っ!」
嬌声をかみ殺して、白い欲望を吐き出した。
とっさに、胸を揉んでいた手を伸ばして受け止めた。その手のひらの濡れた感触とは裏腹に、心はざらざらと乾いていく。
まだ体は火照っているが、とても続行する気分ではない。ため息をついて体を起こし、洗面台に向かった。
手を洗おうとして、ふと、鏡の中の自分と目が合った。
「……っ、」
年甲斐もなく若い男を求めて自らを犯した中年男。その浅ましい色情に染まった顔は、ひどく卑しく見えた。
みじめな気持ちで目を逸らし、手を洗うと、そのまま風呂場の引き戸を開けた。
溜まっていく湯船を見下ろして、ぼんやりと考える。
……好きだと言えば、あいつは俺から離れないでいてくれるだろうか。
ずっと側にいてくれるだろうか。
そう考えて、頭を振る。
ダメだ。
あいつの輝かしい未来を、より高い場所への昇進を、妨げることになる。
……これは、分不相応な欲しがりだ。
芽生えた想いは、胸にしまっておこう。
その根がどれほど深くはびこっていようとも。
取り除くにはもう、手遅れだとしても。
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