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真っ赤になった貫一さんが、俺の手を払いのけた。
そのまま勢いよく振り上げられた彼の手は、けれど振り下ろされずに宙で止まってブルブル震え、やがて力なく落ちた。
怒りの形相がみるみる崩れ、赤くなった頬もスウッと色褪せていく。感情を殺すように目を伏せた貫一さんが、絞り出すように声を発した。
「……とにかく、今夜はもう練習するな……」
俯きながら部屋を出て行った貫一さんを、俺は呆然と見送った。
ドアが閉まったあとも放心していたが、しばらくして両手で顔を覆い、崩れるように床にうずくまった。
バカか、俺は……!
貫一さんに、あんな八つ当たりするなんて……!
口の中がひどく苦い。
自己嫌悪が膨れ上がり、肺まで圧迫されて息も満足にできない。陸上に打ち上げられた魚のようにみじめに喘ぐ。
そこへ追い打ちをかけるように、それまで無視していた体の叫びが一気に噴き出してきた。
とてつもない疲労感だ。だけど体の辛さより、心の苦しさのほうが勝っている。心臓が壊死してしまいそうなほど鈍い痛みに苛まれ、ズウンと深く沈んでいく。
俺は、何をしているんだろう。
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