俺の光

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膝を抱えて沈んでいると、唐突に声がした。 「このアカンタレが」 開きっぱなしのドアから入ってきたのは意外な男だった。 「加地さん……」 のろのろと立ち上がると、加地さんは目深にかぶったキャップのツバを人差し指で押し上げて、 「ワイと似たり寄ったりの負け方しよってからに……チッ、」 舌打ちして、いきなり俺の胸倉をつかみ上げ、不機嫌そうな目つきで凄んでくる。 「ワイに勝っといて、そないみっともない有様さらしとんちゃうわボケが。ウジウジ湿気(しけ)っとるとカビ生えんで。お前はグローブもトランクスもシューズも黒やから、黒カビやな。やーい黒カビ」 黒カビ……。 「……違います。黒はケルベロスブラックの色なんです」 「ああ、あのダサい地味なやつか。俺のフェニックスレッドにつつかれてたやつか」 「つつかれてたけど地味じゃないしダサくもありません。無骨でカッコイイんです」 「ふぅん。負けてジメジメの黒カビにカッコイイ言われても、ケルベロスブラックは嬉しゅうないやろなぁ」
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