俺の光

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自覚していなかったが言われて納得した。 俺は、これまで対したことのない速さの拳に怖れを感じていたのだ。そこへヒットが取れない焦りと、打たれた痛み、空振りの疲労が加わって、どんどん動きが鈍くなっていった。 加地さんがまたチッと舌打ちして、独り言のようにつぶやく。 「それに抗って、パンチが届く距離まで接近しても、こっちのパンチは避けられる。だけやなく、パンチを打とうとガードを開けたとこを狙い撃ちされて倍のヒットを喰らわせられる。 あいつのパンチは強打やないけど、速いぶん硬いし、とにかく何発もくるからかなりしんどい。一発ドカンともらうより重ねて細かく打たれるほうが肉体的にも精神的にも効くしな。……あー、思い出してもうた。腹立つ」 「加地さんも怖かったんですね」 「アホ。誰にもの言うとんねん。怖ないわ、アホ」 ギロッと睨まれたのでそれ以上そこに触れるのはやめにした。 「でも、恐怖心を克服したとして、それだけで勝てるわけじゃありませんよね」 「せやな」
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