俺の光

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落ちていく心とは裏腹に、体は勝手に起き上がり、気付いたときには貫一さんに支えられてリングを下りていた。 ――よくやった、よくやったぞ! 必死の励ましを送ってくる貫一さん。 その目尻が濡れているのを見て、息ができなくなった。 巨大なハンマーで脳天を叩き割られたような、信じられない痛みが体中を突き抜けた。 それは、俺が知る中で一番の痛みだった。 どんなパンチも、これほどの痛みは生まない。 貫一さんの前で、俺は負けた。 負けたんだ。 体の奥底からこみ上げてきた鈍重な塊が、肺を、気管を、心臓を圧迫していく。苦しくて喉を掻きむしりたくなる。 悔しい。悔しい……! 負けることが、こんなに悔しいなんて知らなかった。 ……いや、この悔しさは、自分が負けたことに対しての感情じゃない。この、猛烈に湧いてくる悔しさは……俺が本当に悔しいのは、貫一さんの期待を裏切ったことなんだ。 下馬評からして、貫一さんも俺が勝つ可能性は低いと思っていただろう。 それでも俺の勝利を願い、信じてくれたのに。 ――お前なら勝てる! そう言って、心配げに瞳を揺らしながら送り出してくれた彼の気持ちに、俺は応えられなかった。
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