俺の光

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濡れた目元を拭ったとき、不意に、俺を慰めるためにキスしてくれようとした貫一さんの顔が思い浮かんだ。 もうずっと、気が変になるほど求めていたものを与えられようとしているのに、拒まないといけなかった。 彼との初めてのキスは、喜びに満ち溢れたものにしたい。こんな負け犬に彼の口づけは勿体ない。 ……勝たないと。 そうしないと、俺はキスすらできない。 そうだ、勝つんだ。 一度折れたくらいで立ち止まってはいられない。 未熟な己を脱却して、強くなる。 柳瀬さんとの差は嫌というほど痛感した。 それでも諦めない。 どれだけ高い壁であろうとも俺はその先へ進まないといけないんだ。 必ず突破口を見つけ出す。 再びパソコンに向き直った。柳瀬さんとの試合を繰り返し再生し、自分の敗北を直視する。 また、試合前にチェックしていた柳瀬さんの過去の試合動画も再度チェックした。 何度も何度も、柳瀬さんのモーションを覚え尽くすように見ているうちに、いつの間にか夜は明けていた。
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