俺の光

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「……智典、俺は、今までお前のスパーリング相手になってやれなかった。お前どんどん強くなるから俺じゃ相手にならないと思って、お前が三輪くんと練習してるの知って、こっそり三輪くんにお前のこと頼んだりしてた。……だけど、情けなかった。俺はお前のトレーナーなのに、って」 貫一さん……。 選手がジムの外で勝手に練習するなんて、トレーナーにとって腹立たしいことだ。プライドもひどく傷ついただろう。 でも彼はそれを咎めないどころか、三輪さんに俺のことを頼んでいた。……自分のプライドよりも俺のことを考えて、そうしてくれたんだ。 あの、貫一さんの試合映像も……。 自分からは恥ずかしくて渡せなかったから、三輪さんに渡してくれと頼んだのだろう。 彼にとって苦い過去なのに。負け試合なんて、教え子に見せたくはなかっただろうに。 グッと目頭が熱くなった。 「……俺は確かに力不足だけど、お前のトレーナーなんだよ……だから、拳を受けるくらいはさせてくれよ。せめてミットくらい打ってくれよ。……って言っても、どうせお前はやらないから、」 貫一さんが両腕を広げた。無防備な腹をさらして、 「荒療治だ。打ってこい」 できるわけがない。 ブンブン首を振る俺に、貫一さんが叫んだ。
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