俺の光

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「智典! 俺は、お前のためなら肋骨全部へし折られても耐えられる! そのくらいの覚悟とっくにできてんだ! だから、こい!」 嫌です……っ! こらえきれずに涙がこぼれた。 グローブで目元を覆ったが、隠しきれなかった。頬を伝い、アゴ先からポタポタとリングに落ちてしまう。 貫一さんは広げていた腕を下ろして、何か小さくつぶやくと、ロープをくぐってリングを降りた。 「帰る。30分したら、うちに来い。……待ってるから」 ドアが閉まる音を聞いて、俺ものっそりとリングを降りた。 グローブを外して、タオルでごしごし顔をこする。ふと鏡を見ると、ひどい顔をしていた。 ああ、やっぱり俺、カッコ悪いな。 はぁ、とため息をついた途端、ドッと疲労感に襲われた。立て続けに何試合もしたような感じだ。立っていられなくなり、ふらふらと壁際のベンチに座る。 そのままボーッとしていると、いつの間にか窓から差していた西日は失せ、代わりに表に立つ電灯の明かりが弱く差し込んでいた。ほの暗い室内でぼんやりと時計を見る。 ……そういえば、30分経ったら家に来いって言われたんだった。 ゆうに1時間は過ぎている。 正直、行きたくない。 泣いてしまったあとで顔を合わせるのは恥ずかしい。だけど待ってると言われたからには行かなくては……。 ジムを出て、のろのろと彼の家に向かう。
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