俺の光

38/42
前へ
/267ページ
次へ
ちょっと玄関前で逡巡してから覚悟を決めて戸を開けると、胃袋を直撃する匂いがした。 ゴクンと唾を飲んだとき、貫一さんが居間から顔を出した。 「遅いぞ。早く上がれ」 「……おじゃまします」 居間に入ると、テーブルの上にズラリと料理が並んでいた。 ツヤツヤした白身魚の刺身に、豚もやし炒め、ぶり大根、黒豆ときゅうりの酢の物、きのこの炊き込みご飯、あさりとほうれん草の味噌汁が、タッパではなく、ちゃんと皿や器に盛り付けられている。 「これ……」 「下ごしらえは済ませてたから、あとは温め直して盛り付けるだけだったんだ。あーでも、冷めちまったな、ちょっと待ってろ」 貫一さんは豚もやし炒めとぶり大根を持ってレンジへ向かった。 俺は呆けたようにテーブルの上を眺める。 いつもタッパのまま出されていたので見た目には特に感想を持たなかったが、貫一さんはさすが旅館で板前見習いをしていただけのことはあり、刺身の盛り付けは料亭並みだった。 ……これを拵えて、待っててくれたのか。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加