俺の光

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壁に背をつけて窓の外を眺める。 どんよりと曇った空。 押しつぶされそうになりながら、拳をぐっと握る。 「……行かないと……」 無理やり気持ちを切り替えて、マンションを出た。 のろのろと吉田ジムに向かい、ドアを開けると、鮮やかな赤白のカラーリングが目に飛び込んできた。 経年劣化で色あせ、表面がところどころ剥がれかけていたリングロープが、すべて綺麗に貼り替えられている。 「うわ、どうしたんですかコレ」 思わず声を上げると、貫一さんがへへっと笑った。 「昨夜なんとなく気が向いたからやってみたんだ。こうしただけでなんか新品感出ただろ?」 1辺4本、4辺で16本のロープを、全部ひとりで貼り替えたのか。 彼がそれをしたのは『気が向いたから』ではないだろう。本当の理由は、言葉にされずとも、思いやるような優しい眼差しから読み取れた。 ……俺が、心機一転頑張れるように。 その心遣いに胸が痺れた。 「……じゃあ、早速練習しようかな」 そう言って、壁に掛かっている練習用グローブを取ろうとしたが、貫一さんに止められた。 「ばか、ダメだ! まだ試合から3日しか経ってないのに練習なんかさせられるか」 「大丈夫ですよ」
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