俺の光

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増えたのは栄養学の本だけではない。 部屋の隅には、ボクシングの専門書が山積みされている。それらにも無数の折り目が入っている。折り目は毎日増えていく。 貫一さんが日々熱心にそれらを読み込むのは、誰のためか。 そんなこと、考えるまでもない。 胸がふつふつと粟立っていく。 「……ありがとうございます」 食事を終えて頭を下げると、貫一さんは、ふっと優しく笑った。 「……俺は、信じてるから。お前はきっと柳瀬に勝てる。……でも、ひとりで頑張ろうとするなよ。俺もいる。……俺にも、背負わせてくれ。お前に勝利の喜びを与えられてばかりじゃいたくない。お前の苦しみも分かちあいたい。そして……」 ゆっくり俺の隣にやってきて、俺の手に、その手を重ね、 「ふたりで一緒に世界に行こう」 気負いで凝り固まっていた心が、ほどけていく。   澱んでいた不安も、恐怖心も、薄れていく。 代わりに、透き通ったマグマが溢れた。 清く輝きながらも沸々と燃えたぎる衝動に、めまいがした。 貫一さん、貫一さん、貫一さん……!
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