再戦

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声援に迎えられてリングに上がると、曲が切り替わった。 超絶技巧のピアノ曲――メンデルスゾーンの『厳格なる変奏曲』が流れ出す。 その曲とともに、柳瀬さんがゆっくりと通路を歩いてくる。 白い肌に、白いグローブとトランクス、燐光を発しているような彼を、じっと見据える。 絶対に、勝つ! 視線を感じたのだろう、赤コーナーに着いた柳瀬さんが、静かに俺を一瞥した。 だがすぐに目をそらし、興味なさげな様子で、後ろに束ねた髪をいじりだす。 くそう……。 そこでレフェリーに呼ばれた。グローブタッチをしてコーナーに戻る。 まもなくホイッスルが鳴った。 「セコンドアウト!」 ロープをくぐり出た貫一さんが、コーナーポストの後ろから拳を突き出してきた。 「智典、お前の全力を出してこい」 力強くうなずいて、彼の拳にグローブを合わせる。 行ってきます!
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