再戦

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深々とめりこんだ俺のパンチは、彼の鼻柱だけでなくそのプライドも折ってしまったらしい。 前回余裕で倒した相手にダウンさせられるなど想定外だったのだろう、直立したまま止血された柳瀬さんは、やけに無防備な表情でぼーっとしていたが、徐々に異様なオーラを発し始めた。 半眼でブツブツと何かつぶやいている。 「……ない、……俺は……負けられない……」 ファイトがかけられたと同時に、柳瀬さんはそれまでとは一転、人が変わったように迫ってきた。 その威圧に肌寒さを覚え、阻止するために強めのジャブを数発打ったが、グローブで弾かれた。だけでなく、巧みなジャブを何発も打ち返され、前半に掴んでいたリズムを奪われていく。 なんだ、これ…… 接近しているのに柳瀬さんを遠くに感じる。 打っても当たらないことが、強引に行けば確実にカウンターをくらうことが、感覚的にわかる。 常軌を逸したようなプレッシャーに呑み込まれている自分を、強く意識した。それによりスピードもパンチも精彩を欠いていく。わかっていても撥ね退けられない。 なんだこの重圧は……! まるで氷雪混じりの暴風に耐えているようだ。 息をすると凍ってしまいそうな気さえする。 冷たい汗がひっきりなしに背中を伝うが、喉はカラカラに乾いていく。 カァーーン! 救いのようにゴングが響いた。
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