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5ラウンド開始直後、おぞましいほどの剣幕で柳瀬さんが突進してきた。
抑圧されていたものを解放するように、拳を突き出してくる。
これまでの彼にはなかった戦い方に戸惑い、思わず足が止まった。
そこへ、上下へ散らすジャブから右ストレート、左ボディフックのコンビネーションを見舞われる。
「……ッ!」
ジャブはくらったが、ストレートはヘッドスリップで避け、ボディフックは肘のガードで防いだ。
後退しながらガードを構えなおす。
柳瀬さんが気味悪いほど静かに迫ってくる。
その重苦しい波動に圧され、体が萎縮していく。
迎え撃とうとジャブを出すが、関節が錆びてしまったように動きが鈍い。
たちまち劣勢に追い込まれてしまった。
どうしてだ、どうして体が動かない!? このプレッシャーは何なんだ……!?
動揺から、柳瀬さんが放った右のダブルに反応して、ついガードを上げてしまった。
ドスッ!
肘下の隙間から、胃を深々と突き上げられた。
体の中枢がグワンと震撼した。
いくら呼吸をしても酸素が肺に入ってこない。
苦悶しながらも、反撃の右を伸ばす。が、力が入らない。ゆるいパンチは簡単にかわされてしまった。
くそ……っ!
マウスピースを噛みしめたとき、ふと、荒い息が聞こえた。
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