再戦

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柳瀬さんのスピードがまた落ちた。パンチもさらに鈍っている、ペースが乱れている。 あの完全だった王者が、今や見る影もない。 今なら、勝てる。 柳瀬さんに、勝てる。 そう思うのに、追い込みたくても力が出ない。 俺も、もう、限界だ。 口の中に血の味が充満する。酸欠で息ができない。水中にいるようだ。身体が重い。苦しい、苦し…… 紗がかかった視界に、そのとき、青コーナーのリングサイドが映った。 そこで男が手を組んでいる。 祈るように。 貫一さん…… 以前、彼が言っていた。 「ボクシングの勝敗には、各々の力量だけじゃなく、メンタルも大きく作用する。昔からよく言われている根性論はばかにならないんだぜ。まぁ、俺が言えたことでもないがな。……でも俺は、今でもそう信じてる」 そうだ、最後の武器になるのは意地だ。 何がなんでも勝とうとする意地。 それすら互角なら、あと一歩突き抜ける勇気が、勝利のカギになる。
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