再戦

23/44
前へ
/267ページ
次へ
どんな痛みもリスクも背負い、前進する勇気。 その勇気を、俺は持っている。 俺の後ろには、勇気の源がいる。 あのひとがいる限り、俺は止まらない。 どこまでも突き進む。 動く。 まだ俺の脚は、動く! 覚束ない脚を、意志で突き動かす。 肋骨や背骨が軋むのを無視して前進する。 そこへ、ビュゥン! と電光石火のような拳が飛んできた。 ブロックしたが、拳はやまない。左右から交互に打ち付けられる。 何故いきなりスピードが戻ったのかと驚いたが、柳瀬さんの目を見て、わかった。 彼は、体に残っていた全ての力を絞り出し、勝負をかけてきたのだ。 速い拳だ。速い。 だが、俺はそれをヘッドスリッピングでよけていく。 確かに速いのだが、俺はそのモーションを予見し、対応できる。 何度も彼の試合動画を見て彼の動きを頭に叩き込み、イメージシミュレーションした成果だろうか。それとも何ラウンドか拳を交えたことで読めるようになったのか。 わからないが、自分が常時の感覚でないことだけは確かだ。不思議と現実感が失せている。 そのとき、まぶたがチッと熱くなった。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加