再戦

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生温かいものが目の端から入り込み、視界の片方を赤く遮った。 音が消えた。 無音の世界でぼんやりと考える。 ああ、これ、知ってる。 加地さんとの戦いでも感じた。 何かが引きずり出される感覚。 理屈ではなく直感的に体が動いた。 柳瀬さんが放った左ストレート。その腕に、右腕を当てて強引に軌道を変えつつ、そのまま濃縮した力を解放するように突き出した―― ドォン! 右クロスカウンターが爆発的なパワーで弾けた。 大きく仰け反った柳瀬さんが、スローモーションのようにゆっくりと後ろへ倒れていく。 スゥッ、と霧が晴れるように視界がクリアになった。 夜明けのような静けさのなかに、ゴングが鳴り響く。それから数拍遅れて、会場を揺るがすようなどよめきと拍手がドッ! と沸いた。 大瀑布の真下にいるような騒音の中、レフェリーに腕を持ち上げられた。呆然と顔を上げる。 俺…… 「智典ーー!」
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