再戦

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ずっと抱きしめていたかったのだが、 「来宮選手、失礼します」 割り入ってきた声で、貫一さんは我に返ったらしい。パッと俺から離れてしまった。 名残惜しく腕を伸ばしたままの俺の腰に、するりとベルトが巻かれる。その手際の良さに感心する間もなく、リングの外からパシャパシャとフラッシュを焚かれた。 「来宮選手、視線こっちにお願いします!」 「こっちにも!」 それらに応えながら、ちらっと斜め後方を見る。リングの上に担架が入れられ、柳瀬さんが乗せられている。貫一さんもそれを手伝いに行った。 運ばれていく柳瀬さんを見送る貫一さんは、心配そうではあるが、何となくこれまでとは違う雰囲気だった。憑き物が落ちたというのだろうか、すっきりした表情をしている。 ……それは、そうか。 自分の選手が勝ったんだもんな。 日本チャンピオンに、なったんだ……。 俺も、通路を行く担架に目をやった。
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