再戦

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前回の借りは、返せた。 勝利は嬉しい。が、なぜか素直に喜べない。 何とも言えぬ後味の悪さがある。 柳瀬さんの拳がぶつけてきた想いが、体の中で梵鐘のように響いている。 柳瀬さん……。 会場から消えた彼に、深々と頭を下げる。 肩に、ずしりと重い物が乗った気がした。 その後、医務室で手当を受け、チャンピオン認定の表彰式を終えた俺は、たちまち記者の群れに捕まった。 俺の疲労を気遣った貫一さんが彼らを制そうとしたが、なかなか解放してもらえず、最後には逃げるようにホールを出た。 タクシーに飛び乗り、いつものホテルに着くと、いきなり強烈な眠気に襲われた。 貫一さんが心配そうに俺を見ている。そんな顔させたくなくて睡魔と戦ったが、勝てなかった。 気絶するように眠りに落ち、目覚めると、ベッドサイドに座って俺の手を握り締めていた貫一さんが、ほうっと泣き笑いのような顔をした。 「……よく寝てたな。具合はどうだ?」 「大丈夫です。いま何時ですか?」 「午後4時だ」 「え? なんで時間が遡ってるんです?」 「何言ってるんだ。今日は24日だぞ。お前は1日近く寝てたんだ」
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