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「じゃあね。ゆっくり体を休めなさい」
「え、もう帰るんですか?」
台所から貫一さんが慌てたように出てきた。その手には急須がある。テーブルの上に空の湯飲みが二つ置いてあることからして、どうやらお茶のお代わりを淹れていたようだ。
「これからバーの準備があるから」
そう言って、母さんと美咲さんは玄関に向かった。おそらく、あまり長居しては俺が休めないと気をつかったのだろう。
見送りに行く貫一さんに、俺も布団を出て続いた。
「ありがとう、……心配かけてごめん」
頭を下げると、母さんの腫れぼったい目が潤んだ。
「……これだから、男の子は嫌なのよね」
母さんの肩を抱いた美咲さんが、マイナスイオンを生み出しつつ微笑む。
「智典、たまにはうちに来なさい。母親に定期的に顔を見せるくらいの親孝行はしないとだめよ」
「はい」
俺が頷くと、美咲さんは清らかなオーラを貫一さんに注いだ。
「貫一くんも遊びに来てね」
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