再戦

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どんなに強くなっても、あなたには敵わない。 あなたはその笑顔だけで、俺の胸を打ち砕くんだから。 そのとき、厚い雲に切れ目ができた。 一筋の白い光が降りてきて、俺の腕の中にいるひとの輪郭を、キラキラと飾る。 逆光のなかで、ふと、貫一さんの瞳が切なげに揺れた。 「……生きた心地が、しなかった……」 小さくつぶやいて、俺の胸に寄りかかってくる。 「貫一さん……?」 「言っただろ、ガードはちゃんとしろって」 「しましたよ」 「最後はほとんどしてなかっただろ、またボカスカ打ち合いやがって」 「あれは、したくてもする余裕がなかったんです。……それに、お客さんたちはああいう激しい戦いが好きだから喜んでくれたんじゃないでしょうか。記者さんたちもスリリングで良かったって言ってましたし」 「スリリングなんていらない! 俺はお前が……っ、」 聞き取れないほど掠れた声で、貫一さんが何事かつぶやいた。聞き返すと、 「……何でもない。忘れろ」
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