ハートブレイクショット

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蝉の声がうるさい8月末、智典が日本チャンピオンになって、およそひと月が経った。 ジムの壁には、額縁に入った日本ミドル級チャンピオンの認定証が飾ってある。 それを毎日何度も眺めては、これが夢ではなく現実であることを確認しているが、まだあまり実感は湧かない。 けれど明らかな変化は起きている。 智典の活躍により、うちのジムへ入会申し込みがくるようになった。 しかしながら、うちにいる指導者は俺だけだ。 入会してくれるのは嬉しいが、智典の指導だけで四苦八苦しているひよっこトレーナーの俺が、他の練習生数人を掛け持ちするなんて無理だと思う。 だけど、せっかくうちに入りたいと言ってくれるのだ。無理でもなんでも頑張りたい。だが、その無理をして、指導がおざなりになるなんてもってのほかだ。 専任トレーナーがいればいいのだが(規定ではいないといけないのだが)、まだ見つかっていない。 残念だが断ろうと思ったとき、ちょうど暇つぶしに来ていた長浜が助け船を出してくれた。知り合いのトレーナーを紹介してくれるという。 だが、給料の問題がある。
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