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きみの目が開くとき、なんて声をかけようかって、すごくたくさん頭を使った。
「目が、さめた?」
きみは大きな目で俺を見つめる。目が醒めてすぐに意識が働く寝起きの良さはなに一つ変わらない。
「おはよう」
「おは、よう」
きみは、戸惑い気味に返事をする。
「俺は、渋谷清遥といいます」
なに?頭でも打った?
って、鷹山が笑ってくれたら、それと引き換えにきみ以外の全部なにもかも捨ててもいい。
そう思う。のに。
「渋谷、さん」
ね。奇跡は起こらないから奇跡って名前が付いていて。
俺を好きだったきみは一瞬でばらばらに砕け散ってしまった。
「君とは高校の時からの関係で、」
砕け散ったものをかき集める。かき集めてきみに捧げるしか、俺には出来ない。
「君は驚くと思うけど、」
きみのかけらは、目には見えないけど、ばらばらに砕けて、俺の中にある。
「俺は、君の、」
俺はいつも適当だったから、きみのかけらを全て持っているわけじゃなくて、でも、あるものしか与えられないから、かき集めてかき集めて、どうにかきみを作ろうと頭を働かせた。
俺にとって、きみにとって。
お互いはどんな関係だったのかとか。
俺達の関係。
きみの言った言葉。
きみの注いでくれた気持ち。
それら全てをかき集めて行き着く、僕ときみのキズナみたいなもの。
幸福な繋がりを紡いで形作る。
その半面で、一瞬ちらついた最善の方法から俺は意識的に目を逸らした。
「…恋人、でした」
最善の方法がなごって、中途半端な言葉になる。
きみは僕を見上げて、僕はきみから目を逸らして。
きみの頬を伝うもの。
感情から溢れる液体。
「…ごめん」
その言葉が意味するものが解らなくて唇を噛む。
無力な、無力な子供みたいに。
「覚えてなくて、ごめん」
きみはきみらしい言葉で僕を安堵させる。
素直な、偽りのないいたわりの言葉で僕を救う。
きみとの関係は、これで終わってしまうのかな。
それは自分が引き込んだ運命なのかもしれないけれど、
そう考えると少し辛いな。
きみが忘れてしまったのなら、仕方ないし、僕にはなにも出来ない。
できるなら、何だってするけど、多分僕にはなにも出来ない。
「…キス、してみてもいい?」
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