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鷹山は両親に恋人が男であると告白し、今、その好きな男と暮らしているといったらしい。
俺の名前は告げず、どこに住んでいるかも言わず。
「カンドーされた」
けらりと笑って君は言う。
「…そっか」
俺は何も言えなくて、ただ。
「俺も挨拶に行くよ」
なんて、偽善的で心にもないことを言った。聡い君は俺が本心でものを言っていないことを見抜いていて、それで、
「時期が来たらね」
と笑う。
「今は両親とも混乱してるから」
時期が来たら、
もう少し大人になったら、
余裕が出来たら、
いつか独り立ちしたら、
俺は。
まだ、叔父に鷹山とのことを話す度胸はない。
「判った」
何が判ったのか判らない俺の返事。
鷹山を愛していることは確かなのに、不安で、怖くて、周囲を気にすることしか出来ない。
「絶対、親御さんを説得するから」
鷹山の顔が見えないように抱きしめる。目を見て不安を悟られるのが怖い。
俺の汚さが、弱さが、狡さが、君を幻滅させそうで。
「お嬢さんを僕にくださいみたいだね、清遥」
無邪気に笑って君は話を逸らす。極めてなんでもない、軽い話題に変えようとする。そんなことしたって鷹山の両親に許される関係に変わるわけじゃない。社会に胸を張れる恋にはならない。
でも、俺は逸らされた話に敢えて乗る。
自分の格好悪さに気付かれたくない。そんなくだらない見栄があるから、話をごまかす。
「ご両親に挨拶、みたいな?」
俺は胸の中で笑う。
「カンドーした息子さんの代わりに僕を息子にしてくださいって」
「…それはダーク過ぎないか…?」
「そう?」
けたけたと笑い、俺の胸に縋る。縋って、顎をあげると俺の唇にキスをする。俺はその首筋にキスを返す。
現実から目を反らすように甘いものを注ぎ込んで飲み干す。
俺の目は理想ばかりを追いすぎて曇り、君の嘘さえ、見抜けなかった。
長い時間があると勘違いして、理想と机上の空論だけひけらかして。時間は湯水の如く沸くものではないと気付かなかった。
だから、
だから、時間を大切にしない俺に天罰が下ったのだろう。
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