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「あんた、誰?」
俺がいつも君より早く起きてる理由。
さんざっぱらヤりちぎった後の動かしようのない痕跡だって目につくのに。
「清遥。渋谷清遥。」
白いシーツで体を隠すみたいにして、猜疑心いっぱいの目で見られるのに、慣れて来ている自分に吐き気がする。
「鷹山の、」
俺がどんな思いでいつも口を開いて同じ台詞をいってるかなんて、多分君は判ってない。
それがどれくらい残酷かってことも。
「大塚鷹山の恋人。」
両手に持ったマグの片方を彼に差し出した。
それを見上げる大きな目には涙の膜が張る。
「……何度目?」
睫毛がふるふるとわなないて、君は顔を伏せる。
朝のひとしきりの儀礼みたいなもので僕はだんだん君のその涙にまで無感動になっていく。
それが怖い。
いずれ俺は鷹山のどこにも、何も感じなくなるんじゃないかって。
怖くなる。
「俺、カウンター付いてないから」
極めてなんて事ないように言う。
だって深刻ぶって考えて計算したら何回なんて世界じゃなくて多分、何百とか、何千とか、何万の世界。
「ごめん」
「何であやまんの」
伏したつむじに唇を落とす。
「謝る必要ないだろ」
だって謝ったって何にも変わらないし、変わらなければ、何にも生み出さなくて、建設的じゃない。
「駅前、行こう」
真っ赤な目をしたまま、鷹山は顔を上げる。
「駅?」
「駅。」
その真っ赤な目の下に、わざとらしくキスをする。
「いつも通り、ギターとマイク持って」
俺は今度こそ鷹山にコーヒーを渡す。
その代わり、片手に煙草を持って、唇にそれを挟む。
ジッポで火を付けて、もう真っ黒な肺の中に有毒ガスを吸い込む。
「何それ、おもしろいね」
いつも通り君が笑うから俺もつられて笑う。
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