Hospital

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 弾かれてきみを見る。  照れも嘲笑もない真剣な顔は真っすぐに俺を見る。  「キスしてみたい」  はっきりときみの唇が動く。  きみの指先が頬に触れる。  それは冷たくてきみとは全く違った。  なんて、突拍子もない。  「頭が忘れてても体が覚えてることがあるかもしれない」  きみらしい言葉に少し笑う。  「泣いてるみたいに笑うんだな」  って、きみも笑う。  初めてみたいな緊張は、きみが体ごと全て俺を忘れてたら怖いなっていうそんな緊張。  微かに唇が触れ合って、それはキスとは言えないくらい本当に微か過ぎて、きみは笑う。  「ん」  笑って唇を押し付ける。  「気持ち悪くない?」  離れた唇に問う。  「気持ち悪かったら二度もしないよ」  三度めの口付けは唇を少し開いて、一番ピッタリ合う角度を探す。  四度めははしたなく二人唇を大きく開いた。  舌を絡めてきみを確かめる。きみの中の俺を探す。  「たぶん、渋谷さんは嘘を言わない人だね」  なんて、他人みたいに呼ばれる。胸が痛くなる。  きみは僕の胸にうずくまる。  「俺は確かにあなたが好きだったんだね」  幸せそうに笑うきみに涙が溢れた。  好きだった。  今は違うようなそれが苦しい。  「ごめんね」  またきみは謝る。  「覚えてなくって、ごめんなさい」  ほろほろときみの目から涙が溢れる。  今のきみに過去を押し付けるのは間違っているのに、俺は。  「渋谷さん?」  自分の涙を見られたくなくて今にも号泣しそうなきみの、そのこめかみに唇を落とす。真っ白な包帯越しの口付け。  「あなたは俺が好きだったの?」  そんな疑問の形に喉が動く。  好きすぎて、きみを連れて逝こうとするくらい好きすぎて。  こんな過ちを犯してしまうくらい好きだ。  伝う涙はきみの薄い上衣に飲み込まれ、その胸元に手を滑り込ませる。  「渋谷さん?」  きみはわけのわからない顔でベッドに沈む。  小さな胸の尖りに指先を引っ掛ける。  「渋谷さん!」  きみの声は拒絶にも誘惑にも聞こえる。  白い肌に擦り傷が赤い。  上からのしかかって、きみは俺にしがみつく。  はじめての時とおんなじ。  「ごめん、ごめんね」  きみは泣く。  何度も何度も僕はきみを泣かせる。
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