111人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の過ち。
君がケータイを変えた時、なんで電話番号まで変えたのか、疑問を持たなかったこと。
君がなぜ家族と連絡を取らなくなったのか問わなかったこと。
あの事故で壊れたきみのケータイから再構築出来なかったきみの実家の番号のこと。
君のことを、君の家族に伝えなかったこと。
朝になれば君は、俺を忘れてくれるから。
君が眠っている間に出ていこうと思っていた。
そのためにしなくちゃならないこと。
俺がいなくなった後の、鷹山の居場所。
受話器を取り上げ、高校時代の同級生から聞いた番号を微か震える指先で押す。
コールの後すぐに繋がる電話が、その主が、誰かからの連絡をいつも待っていたことを知らせる。
口早になる。
彼の状態、彼の居場所、彼との関係…。
相手に喋る隙を与えたら、俺は責められるより他無くなる。
彼の…。
『…鷹山を唆しただけではなくてそんな危険にまで曝したんですか』
隙を与えないつもりだった俺の言葉は途切れてしまう。
電話口の女の声は俺の事実を容赦なくえぐり出す。
『…あの子の一生を、どうしてくれるんですか』
責める声は縋る声にも似て、俺は何も言えなくなる。
『あなたが事故に遭えばよかったじゃない…なんでうちの子が…だからあの子は連絡もできなかったんだわ…』
母親をよく知らない俺に鷹山の母親の気持ちは判らない。
判らないだけに、俺にはとんでもない理不尽に思えた。
『なんで…』
切られた電話の向こう。
「なんで」
そういいたいのは俺だった。
なんで俺ばかり。
なんで君ばかり。
こんなにも好きで想いは色褪せなくて、なのに笑顔ばかり色褪せて、今にも消え失せてしまいそうで。
きっと、もう、俺も君も疲れきってる。
このままの怠惰な関係を続けることも、すべてを捨てることも、時間が、心が、許してくれない。
最後の決断は俺がするしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!