be my last

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 君の寝顔を見ていた。  荒廃した気持ち。膿んだ傷口。  痛む、肺。  「鷹山」  何度夜に語りかけたと思う?  「鷹山」  きみが瞼を落としたときにしか囁けない言葉がある。  「思い出して」  その額に触れる。  世界で一番愛した人。  「俺を忘れないで」  狭い額に月明り。  その中央に口付ける。  「さよなら」  初めて告げる別れ。  覚悟してたはずなのに、胸が痛むのは、病のせいだと自分をごまかす。  さよなら、愛した人。  愛している人。  最愛の人。  「…なんで…」  唐突にきみの瞼が開く。  その大きな瞳が零れそうに見開かれる。  きみは体を起こし、僕を見る。  「さよならって、なに…?」  1時間52分。  きみが眠っていた時間。  テープはまだ録画を続けている。  「さよならだよ。」  僕は少し笑って、きみを見つめた。  きみは無理矢理に笑顔を作ろうと口の両端を引き攣らせる。  「なんで…」  「俺が疲れたから」  僕はきみに嘘を吐く。  酷い酷い嘘を吐く。  『どうせきみは忘れてしまうから』  なんて、そんな気持ちからじゃない。  『どれだけ酷く傷つけたら、きみが僕を覚えていてくれるか』  そういう、結局自己愛。自己満足。  きみを容赦なく深く傷つけて、怨みでもいい。嫌悪でもいい。悪態でもいい。  きみの記憶に残りたい。  せめて、きみだけは。  俺を忘れないでほしい。  「疲れた。だからさよなら」  簡単だろ。  そんな風に見えるように笑う。  上手く笑えてる自信なんて、あるわけがなかった。
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