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不器用な笑顔を作るきみの頬を幾筋もの光の粒が伝う。
「俺が嘘を吐いたから?」
きみの言葉の意味を探る。
「清遥を忘れたフリなんてしたから?」
振り。
「忘れた、振り?」
僕はただきみを見つめる。
きみは混乱しきった顔できょろきょろと視線をさ迷わせる。
「だって、だって、忘れられると思ったんだ。忘れたふりしてれば、無くなると思ったんだ」
無くなる?
俺の存在が?
俺はそんなにきみに疎まれていたのか。
溜息吐くと肺が余計に痛んだ。
「昨日のことなんて…清遥が、清遥が俺を置いていくなんて、無くなると思ったんだ、ずっと傍にいてくれるって、例え今日一日でも清遥が傍にいてくれたら」
きみはまくし立てて涙を落とす。ぐちゃぐちゃの泣き顔はやっぱり中途半端に笑顔を繕おうとしていた。
きみのいう昨日、は。
きみが事故に遭った日。
僕がきみを壊してしまった日。
もう、2か月以上昔のこと。
「清遥が、俺を心配してくれたらいいと思っただけなんだ…俺が狡かったんだ、俺がいけなかったんだ、逃げようとしたから!清遥の方が辛いのに、清遥のこと、試すようなことしたから!だから、、あぁぁっ!」
途中から言葉は絶叫に変わりきみの甘いハニーボイスは哀れなくらい嗄れ果てる。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!っ…ぅあぁぁぁぁぁぁぁっ…」
きみは天を仰いで泣き叫ぶ。
なのに僕は。
「俺が誰か判っていたの?」
こくりと頷くきみに安堵する。
安堵して、もう一度きみを見る。
「忘れた振りしたら俺がいなくならないと思ったの?」
まるで幼稚園児。
目の前から消して逃避して、いつまでも目に映らなければ、逃げ切れればその事実は消えてなくなる。
そんな考え。
「ばかじゃないの?」
愛おしさが溢れ返って、涙が伝う。
事実が消えてなくなることはないってきみは判っていたのに、そうやって縋るしかできなくて。
それしか出来ないのは仕方ないことなのに。
「ひぅっ…」
しゃくり上げてきみは僕を見る。
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