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僕はきみを抱きしめる。
この胸の奥で焼き切れそうに燃えるきみへの想いが、きみにすべて移ればいいのに。
「ばかだな、よーざん」
「ふひっ…」
きみの顔が歪む。
「ばかだよ」
僕がきみをおいて逝くことに、きっと変わりはなくて。
僕がそれから逃げたいと思うことは当たり前で。
きみがそれを消してしまいたいと願うことは幸せで。
きみが僕を覚えていたこと。
無くしたくないと思ってくれたこと。
それ以上、何を望むの。
きみを解放しなきゃ。
きみの記憶は、僕がいなくなる知らせで止まっているから。
「さよなら」
きみはあの時のまま、僕が消えたと思えばいい。
そして、僕を恨み、疎み、嫌えばいい。
そうして、きみのすべてを受け入れてくれる誰かを探して。
きみなら、
きみなら、そういう相手を見つけられる。
「きよ。」
きみの細くて華奢な体を手放す。
きみはきみを生きていく。
僕はきみの想いを抱いて、死んでいこう。
たぶん。
長い時は生きられないから。
永遠と比べたら、どんな生き物の生も短いものだけど。
残された時間を生きるためには、きみの記憶に、僕がいる事実だけ、確かめられたから、充分。
僕はそれだけで僅かな命を、生きていける。
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