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―――やっぱり。
君はもう、僕らが付き合いはじめた時のことも、もうすっかり忘れてる。
「清遥!」
駅前の変な銅像の前で鷹山は笑う。
「清遥!ここでいい?」
「鷹山、チン像の前好きだよね」
俺は笑いながらギター引っ張り出してアンプを用意する。それだけは絶対忘れないみたいに鷹山はマイクをセットする。
なんでかな。
マイクのセット方法も、俺と付き合い始めたのも事故る前に覚えたのに、片方は覚えてて片方は忘れてしまう。
「はい、鷹山、これ首からぶら下げて」
「んぁーぃ」
鷹山はへらへら笑いながら段ボールにスズランテープ通したプレートを首から下げる。
『ボクの記憶は3時間しか持ちません』
手書きのぎちぎちした文字。
画用紙に書いて段ボールに貼れって言ったのに反抗心とめんどくささで直接段ボールに書いた結果の文字。
そんなことだって朝出掛ける前にちゃんと説明しないと忘れてる。
じゃらーん
って、アンプを介したギターの音。
「僕の声が聞こえますか~♪」
鷹山の少し掠れたハニーボイス。
「今から歌を歌います~♪」
わざと音程外した突拍子もない声。
「お暇な方も♪そ~でもない方も♪聞いてって~♪」
びょ~ん
間の抜けたギター音。
切り替えてG7。
俺の指が走り出すのを感じたように、鷹山の足がリズムを刻む。
高校生の頃からずっと変わらない癖。頭は忘れても、体が忘れない癖。
ずっと変わらないと思っていた、たくさんの『モノ』達の残骸。
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