last night、my sin

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   寝入りばな静寂の中で違和感に気付く。  それは予兆。  軽い渇いた咳は、深いところからの咳に変わり、僕は次に訪れるものが判っていた。  「ぐぅぅっ!」  息をも蝕む痛み。  痛い。  胸が焼け肺がちぎれ頭さえ犯される痛み。  薬を。  ベッドサイドの棚を手探りする。  胸が痛い。  痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!  唇の端から血液が零れる。  このまま死ぬのかと思うほどの痛み。  薬を薬を薬を薬を薬を薬を!  呼吸が荒くなる。死んでしまう。  嫌だ!死ぬのは嫌だ!嫌だ!死にたくない!  「あぐっ…うぅっ!ひぎっ…」  いくら掻きむしっても消えない痛み。死んでしまう。  「渋谷さんっ!」  きみは僕をそう呼んだ。  きみは。  「薬…くすりを…」  喉に血が支える。きみは僕の顔を見て恐慌の直前の顔をした。  あの日と同じ。  あぁ。  また僕はきみを傷つけるのか。  「水、持ってきてくれる?」  僕の精一杯の強がり。  きみは恐慌の顔のまま、僕に背を向ける。  一瞬不安で、でも痛みに堪えられなくて僕はベッドに潰れてもんどり打つ。  いっそ死んでしまった方が、楽に慣れる。  いっそ。  「渋谷さん…」  きみの震える手が僕に水を差し出した。  それを奪い取り、いつもより多い薬を飲む。  どうせ死んでしまうなら。
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