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「世間一般はそういうものだって頭ではわかります。でも、自分はそういう考えは採らない。子どもを作る気もないのに無意味に女性に触れる必要は感じていません。今まで衝動を覚えたこともないし、向井さんに限らずどんな女性にも。…だから、僕がこの人を襲うことはおろか、ちょっと触ったり性的なからかいを仕掛けたりすることも心配無用です。子孫を残すつもりがない時点で性的な欲求も既に死んでます。どうか、安心してこの方を僕に預けて下さい」
「…なるほど」
毒気の抜かれた声で小さく呟いたのはわたし。そういうことですか。
さっきまで彼の部屋で繰り広げられた突飛な問答を脳裏でリアルに思い返してしまい、何とも微妙な気持ちになる。それでも表面上平静を装うわたしの内心を知ってか知らずか、青山くんは話の流れから気遣うようにわたしの横顔を覗き込んだ。
「…どうする?あいつはああ言うけど。性欲のあるないは本人が主張するだけで結局証明はできないし、水掛け論だよな。だけど俺がいると蕁麻疹が酷くなる、とか言われちゃうと。それはそんなことないでしょとか反論しづらいし。身体症状が出るって事実がなきゃそれでも決まりですから、って突っぱねるんだけど。…全部録音しとくか。あいつんとこにいる間?」
「えー…。そこまで?」
わたしは引いて口ごもったけど、青山くんは一人で思い直して考えを翻した。忙しい奴だ。
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