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「ない、ない、ない!」
大きな華をあしらった赤い着物を着ている女性が髪や着物が乱れるのを気にせず机の上や引き出しの中をくまなく何かを探している。
バサバサと書類が机の上いっぱいに散らばり、また端に置かれていた書類は床に散らばり落ちていた。
さらに机の引き出しがすべて外に出され床にいくつも転がり落ちている。それらをすべて気にする余裕がないくらい焦っていた。
「ないないない!ない!ない!どこにもない!なぜだ!なぜないんだ!」
髪をガシガシと片手でかきむしり、だんだんと顔が怒りで赤く染まっていく。
その時である。扉がノックされある男が入ってきた。女性はすぐさま扉の方に顔を向けるがその顔は怒りに染ったままだった。
「なんのようだ!妾は今忙しい!用があるなら後にしろ。さっさと出て行け!」
女性の言葉に男性は気にした様子もなく、むしろ笑みを浮かべながら話し出した。
「我らが女王様。そんなお怒りでどうかなさいましたか?」
「怒りも何も。妾は出て行けと申した。なぜ出て行かぬ。ジョーカー」
ジョーカーと言われた男は女性に出て行けと言われたがなおも扉の方には行かず、それどころかますます笑みを浮かべるばかりである。
さらに
「女王様。女王様がお探しになっているものは見つかりましたか?」
と訊ねるしまつだ。そんなジョーカーの言葉に苛立ってきた女性はますます顔を怒りで真っ赤に染め、
「そなたには関係なかろうぞ」
近くにあった文鎮をジョーカーめがけて投げた。
しかし、ジョーカーは飄々と避けてなおも女性に話しかけた。
「女王様、私は女王様のお探しになられているものがどこにあるか存じてありますよ。それでも私には関係がない、出て行けと申しますか?」
その言葉に女性はすぐさま怒気を含んでいるが驚愕した顔でジョーカーを見据えた。その様子を見たジョーカーはまるでこの顔が見たかったというようにとても満足した笑みを浮かべた。
「……」
「どういうことだ!ジョーカー!はよ答えよ!事と場合によっては名を取るぞ!」
笑みを浮かべたままなかなか話さないジョーカーに痺れを切らし怒気を含んだ声で問いかけた。
「それはそれは。怖い、怖い」
怖い怖いと言いながら顔には笑みを浮かべたままなジョーカー。そんな態度にますます怒りが募り、ガシガシと片手で髪をかきむしる。
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