雨粒の一生

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私は不快感を抱いていた。まるで都会の喧騒にいるかのようだ。周囲がざわついているのである。周囲の者共は新しい旅を予感し緊張と興奮で今にも飛び出していきそうな程である。何がそんなに楽しいのだろうか。いつも同じことの繰り返しではないか? 私が悟ったような気持ちで周囲を観察していると、次第に雲行きが怪しくなってきた。遂にこの時が訪れたのである。ゴロゴロと雷鳴が鳴り響き、旅立つには絶好のシチュエーションとなった。飽和状態になった私達は白き遊覧船から勢いよく飛び降りた。 パラシュートも持たず私達は落下していく。地上を目指し落ちていく。加速し続け、やがて限界の速さに到達する。体重の軽い私達は重力の影響下において、この速さが限界なのである。地上より1000mの高さから、このまま落下すれば私達は地表に身体を打ち付けられて死亡してしまうだろう。しかし、そんな不安を抱いている者はいない。みな笑顔で今日も落下していくのである。下界に目を向けると、雨宿りをする場所を探している鳥達や揚げていた凧を片付けて家屋に入っていく親子を見つけた。特に面白い光景でもない。いつも見ている景色である。さすがに飽きてしまった。私はいつまで、こんなつまらない景色を見なくてはならないのだろうか?そして地面に近づき、高層ビルは横目で確認できる高さにまで到達した。この旅はもう終わりだ。数分の旅であったと思う。私は地面にぶつかる衝撃に備えた。 『ポツ・・・』 私の身体はバラバラになりアスファルト一面に内容物をぶちまけた。凄惨な状態を観衆の前に晒した。私の同胞も同じであり、次々と原型を崩壊させていった。これが人間であったなら悲鳴が上がり目撃者が110番通報をしていることだろう。空から人が降ってきて怪死と新聞に見出しが掲載され名探偵や名刑事が現れミステリー小説が一本出来上がるかもしれない。いや、数百数千数万の同胞も擬人化すれば、もはやミステリーではなくホラー小説といった方が適切かもしれない。だが、私の意識は途切れないし死ぬこともない。死んでいるとしたら、今のように分析などできようものか? 既にお気づきかと思われるが、私は人間ではない。ただの雨粒だ。いや正確に言えば、かつて人間であった雨粒である。ただの雨粒というと人間であった頃の尊厳も自ら汚してしまう気がした為、言い直させてもらった。
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