雨粒の一生

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私は、ある雨の日に命を落とした。大雨で河川が氾濫していたが、せっかちで仕事が全てであった上司に私は付き合わされて、取引先との約束を是が非でも間に合わせようとした為に無理やり氾濫していた河川を渡ろうとした。それが命取りであった。足元をすくわれ流されてしまったのである。死ぬことを覚悟した私は何の抵抗もせず流された。しかし、不思議なことに意識が途絶えない。明確な意識を依然として保っていた。呼吸ができなくなり一度意識を失いはしたものの、奇跡的に息を吹き返した私は再び訪れるだろう絶望を待ったが、いつまで経っても意識は途切れない。死ぬ覚悟をしたにもかかわらず、依然として死ぬことのできないことに苛立つ私は、思い切って周囲を見回した。すると、自分の肉体がどこにもないのである。意識はたしかに存在しているが、肉体はそこに存在していないのだ。もしかしたら、私は既に霊体となっているのだろうかと思い至り空でも飛んでみようかと意識を空に向けて強く向けた。だが、意識が空高くに昇ることなく、ただ流されている感覚のみが残った。いよいよ状況が分からなくなり頭を抱えたい気分になった私は打つ手もなく流され続けた。小一時間経過した頃に変化が訪れた。意識が浮上したのである。徐々に川から離れ地上から1mのところまで浮上したところで、自分はやっと天に召されるのだと思い静かに意識を手放した。どのくらいの時間が経過したか分からないが、私は再び意識を取り戻した。天国に到着したかと思い周りを見てみると、そこは青と白の世界、すなわち地上5000mの地点であった。私は発狂した。とてつもない高さに自分が存在していると自覚したからだ。しかしながら、意識だけの状態の私がジタバタしたところでどうにもならない為、諦めて様子を観察することにした。やがて私は白い雲に意識を飲み込まれた。中に入ると都会の喧騒の中にいるような感覚に襲われた。 『次の出発はいつかな?」 『天気がまだ良いからね。』 『この遊覧船はまだ空いている席も、たくさんあるから当分先じゃないかな。」 『焦らず待つことだよ。我々は一期一会なのだからな。』
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