雨粒の一生

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白き遊覧船に到達した私は、喧騒の中、また落下するまでの幾許の時を待つ。 今でも疑問が解けないが、不思議なことに彼らはとても楽しそうなのである。彼らの中には悲しげなメッセージを発している者は一人もいない。まるでユートピアに住む住人の如くネガティブな感情を発する存在がないのである。私からすればディストピアでしかないこの世界で何故一人もネガティブな感情を抱いている者がいないのであろうか? 『あんた、やっぱり変わり者だな。』 突然、私に声をかけてくる者がいた。それは先程の落下時に雄叫びをあげていたバカな水滴であった。 「どこがだ?」 私はもう一度意思疎通を試みた。 『なんでそんなに辛そうなのだ?ここは天国だろ?君の言葉を借りるならユートピアさ。』 「やっと、意思疎通ができた。何故だ。」 『あんたの発するネガティブなメッセージが異質過ぎて自ずとシャットアウトされていたのではないかな?俺達は、不純物は嫌いだ。自分も汚れてしまいそうだからな。』 「なるほど。しかし、君は私との接触に成功した。それは何故だ。」 『あんたに激しい嫌悪感を向けられて俺の波動が乱れたからだ。本来なら関わりたくもないが、繋がってしまった以上仕方ない。どんな雨粒でも一期一会だしな。』 「バカと毒づいた時か?しかし、バカにバカと言って何が悪い。意味のないことをしている君が可笑しいのだよ。どんなに高くから落ちても落下速度には限界があるのだ。」 『そうなのか?けれど、意味がないってどういうことだ?」 「当たり前だろ?どれだけ君が気合を入れても、落下速度は変わらないのだ。そうだとしたら、君のやっている事は無駄ではないか?」 『そもそも無駄という概念がよく分からないな。』 「無駄の概念がないのか?」 『無駄かどうかは分からないが、俺は楽しいぜ。最大限に、気分をハイな状態にして落下していく。たしかに落下速度は限界があるのかもしれない。けれど、気分によってそれが早くも感じるし、遅くも感じる訳だ。この前は興奮していたから雄叫びをあげながら落下したが、しんみりとしている時は自然に身を委ねて落下していくのさ。それに飛び降りる高さだって様々で景色も違うし、滅多にないが宇宙空間の近くから飛び降りる時なんて自分が選ばれしものだなんて感じたりする訳だよ。』
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