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この、電話がくるまでは。
「――もしもし。入国管理局のものですが」
文化祭を終えて、打ち上げも終わり、一人マンションまで帰ってきた。
鞄を置いて、ほっと一息ついた律のスマートフォンが鳴る。見覚えのない電話番号に、かけ間違いだろうかと思いながら、それを耳に当てた彼女に聞こえてきたのは思いもよらない単語だった。
頭がパンッと弾けたように真っ白になる。
女性の声が、何度か律に呼びかけた。
「あの、もしもし? ……茶川律さんの携帯電話でお間違いないでしょうか?」
「……っあ、はい! そうですが……」
「私、入国管理局の町田と申します。茶川律さんの滞在期限が過ぎている件でお電話したのですが」
「……は、い……?」
それはまるで足場が崩れ去るような衝撃だった。
ふっとよぎったのは自分の出自をよく知らないという事実である。
母のことは知らない。律が物心ついたときには父しかいなかった。
けれど、滞在期限? なんだそれは。それはつまり、『茶川律』という人間は不法滞在だといわれているということか? それは――つまり。
私は、この国民ではない、といわれているということか?
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