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「ご存じかと思いますが、茶川さんの国籍変更の受理は十日前に済んでいます。出国までの期限は七日でした。すでに三日ほど過ぎているんですよ」
「ま、待ってください、国籍変更? そんなはずありません!」
「そうはいわれましても。お父様の方から申告が御座いましたので」
「父? 父がですか? 父は今行方不明で連絡なんて──」
困惑する律に、追い打ちをかけるかのように――それは現れた。
はっと息をのんだ。全てがスローモーションに感じられた。
バチバチと、カーテンがしまったベランダへと続く窓が鳴っている。
まるで強風に煽られているようなそれに、律はスマートフォンを耳にあてたまま、そっとカーテンをあけた。
「うそ――……」
そこには、黒塗りのヘリコプターがいた。
ホバリングしている。家の前で。
ベランダの前で、顔をこちらに向けたまま、ホバリングしている――!
茫然とする律に、手をふる影があった。
少なくとも父親ではない――全く見知らぬ金髪碧眼の青年が、いつの間にかベランダにいて、こちらににこやかに手を振っていた。
――かしゃん。
スマートフォンが手から滑って、音を立てて落ちた。
近づいてもない、開けてもいないのに――ベランダの窓が勝手に開く。
青年は、部屋に入ると呆然と立ち尽くす他ない律に言った。
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