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「やあ、初めまして! 次期国王、お迎えにあがりました!」
「――へ?」
茫然とする意識の中、あまりのイレギュラーに動けない律の耳に、ヘリコプターの音と、青年の声と、青年の足音と、落としたスマートフォンから女性の声が響く。
懸命な呼び掛けだ。それが律を心配してのことなのか、はたまた違うものなのかはまるでわからない。
コツ、コツ、コツ。
室内に革靴の渇いた音がする。
「少し失礼しますね!」
「へっ」
目の前に青年が笑顔で立っていた。
不思議と警戒心が働かないその笑顔に、律は足元をすくわれることとなった。
ほどなくして首の後ろに鈍痛を感じ、律の意識はふっと深い場所に落ちていった。
意識の遠く、果ての方で、彼女にしては珍しく放り投げたままの鞄が目に入った。
(ああ──鞄、ちゃんとしまっておかなきゃ駄目なのに、私としたことが)
――奇しくも。
彼女が十七年生きてきた国の最後に見た光景は――放り投げた学生鞄になったのだった。
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