5人が本棚に入れています
本棚に追加
ある程度分かっていたけれど、肉眼ではっきりとそれが何なのか分かるまでになると、私は怖さのあまり、とうとう失禁した。
「いや……助けて……」
私は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、抜けた腰を動かそうと、手足を必死に動かした。
ーーその時だった。
私の右耳から、声がしたのは。
『私の可愛い赤ちゃん。ほら、ママはここよ。ここまでおいで』
それは聞き覚えのある、2度と聞きたくないと思った声。
そしてこれでもう、2度と聞くこともないと思っていた、透明感のある女性らしい、あの声。
自分の頭の中で、決してそっちを向いてはいけないという警告音が鳴り響く。
それなのに、私はゆっくりと声のする方を向き。
そして、亡くなったあの女と、目が合った。
その目からは、どす黒い血が溢れ出している。
口角の上がった品の良い口は、笑みを浮かべていた。
『ココマデ、オイデ・・・』
ーー了ーー
最初のコメントを投稿しよう!