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私はすっかり腰が抜けてしまい、そのまま床に崩れ落ちた。
壁についた赤いシミと、床に転がっている小さなマトリョーシカから目が離せない。
恐々と左手を見る。
私の左手の親指と人差し指にも、赤い色がついている。
それは、マトリョーシカの繋ぎ目の部分から滲み出てきた、滑りのある赤い色を触ってついたものだ。
血、だと思った。
私は無我夢中で、指についた血を除けようと、何度も何度も指を床に擦り付けた。
あのマトリョーシカの中身は、一体何なのか。
あれくらいの大きさで入る、血のついたものを、私は頭の中で想像していた。
想像する先に見えたのは、それしかなかった。
ぶわっと一気に鳥肌が立ち、元々出ていた汗の上から、更に汗が吹き出てくる。
「やめてよ……何で……何で、私ばっかりこんなに苦しめられるのよ……」
次の瞬間、まるで私の言葉に反応するかのように、床に転がった小さなマトリョーシカが、ビクビクと生き物が孵化する時みたいに動き始めた。
私は怖さのあまり動けず、その場に座り込んだまま、蠢くマトリョーシカをただひたすら凝視した。
すると、ひとりでにマトリョーシカの人形の繋ぎ目部分が、ゆっくりと開いた。
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