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「最後は自殺か、こうして見ると死因は日本にいたころと大して変わってないな」
疲れた顔が少し晴れやかになる。この方法で死ぬと元いた国日本の皆と同じ地獄に行くのかと思うと少し気が楽になる。
そう思う彼はもう言葉どうり疲れていたのだろう。大抵の自殺願望者が死ぬ前に見せる微かな手の震えさえこの青年にはない。
すり足で一歩また一歩と石でできた死の階段を登っていく。
「しかし思ったより高いな。魔王城より高い。やれやれ魔王という遮るものがないと人というものは何処までも手を伸ばすもn」
しがない顔の青年はそう言って奈落の底へ足を踏み外した。
聞いた事も無いような耳を掠める風の豪音と体を何処までも伸ばせる解放感に青年は少し心を踊らせる。
「さよなら」
猫がカーテンから足を滑らせて落ちた時の数十倍鈍い音が辺り一面に鳴り響いた。
数分後、その鈍い音を聞いた衛兵が震源地に近寄る
城の庭一面にひかれた石段が大きく欠け、周りに岩屑として散らばっている。
そしてその周りと比べて一層大きくへこんだその中心に、無傷の青年が先ほどと変わらないしがない顔で立ちつくしている。。
「なにを……やっているんですか? 勇者殿……?」
何事かと駆け付けた衛兵達が、あっけからんとしている「勇者」に声をかける。
しがない顔の勇者は先ほどまで考えていたことを悟られないように気を使いこう答える。
「ごめん、スキル「空中遊泳」を掛けないで空を飛ぼうとしていた」
勿論、嘘である。その顔はにこやかに笑いつつも寂しげ、少し崩れたその笑顔に、衛兵たちはそうですかとしか言えなかった。
(俺のレベルだとちょっとばかし高い所から落ちる程度では傷一つ付かない……か)
そんなことを思い勇者は深いため息をついた。
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