(一)村

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(一)村

 王の使いだという二人の男が私の家にやってきたのは、四年前、私が十歳のときのことだ。  雨季の真っ只中だった。小さく質素な小屋の中、火を囲み、祖母と両親と二人の弟と一緒に植物の蔓でカゴを編んでいるとき、突然彼らが現れたのだった。  祖母と両親は驚き、うろたえた。アンデスの片隅の、私が生まれ育った山の上の小さな村は王都から遠く離れていて、王はもちろんのこと王に繋がる一族の姿を見たことすら誰もなかった。  二人の従者は、自分たちが正真正銘の王の使いであることの証に、王の紋章が彫られた手形を私たちに見せた。銀色に輝くそれには赤い宝石が埋め込まれていた。そんな美しいものを目にするのは生まれて初めてだった。正直に言えば私たちは王の紋章がどんなものであるのかも知らなかったのだが、その手形が高価で貴重なものだということだけはわかった。それから、この村の誰一人として、そんな高価なものを持っていないことも。私たちの村にあるものといえば、植物に乏しい痩せた土地とジャガイモやキヌアの畑と、およそ二十匹のリャマと、質素な小屋が十軒。それだけだった。 「単刀直入に申し上げます。王家が行なった占いで、こちらの家の娘を王子の妃とすべし、という結果が出ました。つきましては、娘さんを王都にお連れしたい」  皆の目が一斉に私に注がれた。この家に娘は私しかいない。 「しかし……ライラはまだ十歳で……」  困惑をにじませた声で父が言うと、ご心配には及びませんと、向かって左側の従者が表情を崩さずに言った。 「婚礼の儀は三年から四年後です。それまで娘さんには妃候補として他の妃候補たちと共に暮らしていただきます。十分な食料や清潔な寝床を保証します」 「そう、ですか……」  母がうつむいた。十分な食料という言葉に心が揺れているのは明らかだった。ここ数年、作物の実りは芳しくない。私の家族を含め、集落の者は誰もが痩せている。できるだけ乳飲み子を抱えた母親や子供たちにより多く食料を配分しているが、それでも、村に今年生まれた赤ん坊は二人とも栄養失調で死んだ。私が王都に行けば、その分、私の食料を他の子供たちに回すことができる。私は覚悟を決めた。 「私、王都に行きます。その代わりに、食料やリャマをこの村にいただけませんか。私はこの村の貴重な働き手なので、私がいなくなったら、作物の収穫に影響が出ます」
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