(一)村

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 祖母と両親が驚いた風に私を見ている気配がある。私はあえて家族の方を見ず、従者二人に視線を注いだ。いずれにせよ王の命令であれば応じざるを得ないのだ。それなら、少しでも村のためになることをしたかった。 「いいでしょう」  右側の従者が、わずかに笑んで言った。 「ライラさん……でしたか。あなたの言うことはもっともです。実は、今日すでに食料とリャマ一匹を連れてきてあります。残りの分は、後日こちらに届けさせましょう。それでは、今から我々と共に王都に来ていただけますかな」 「いいえ。今日はお断りします」  従者二人は眉をひそめた。私は語気を強めた。 「残りの食料とリャマと引き換えです。それに、私は、家族や村の人たちときちんとお別れをしたい。王様や王子様は慈悲深いお方のはず。将来の妃となる娘にはそんな時間も必要だろうと、ご理解くださるでしょう」 「……まだ小さいのに、聡明な女性だ。さすがは王子の妃として占いが選んだだけのことはある」  従者たちは、若干呆れた顔をしつつも頷いた。 「いいでしょう。残りの食料とリャマを連れて、またこちらに来ます。その際は必ず我々と一緒に来ていただきますよ」 「もちろんです。私は嘘はつきません」 「それでは、今日はこれにて失礼いたします」  その二週間後、残りの食料とリャマと共に、二人の従者は再度現れた。  私は家族一人一人と最後に固い抱擁を交わし、従者たちと王都へ向かった。
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